風土を知る

『世界遺産 奄美』(著:小野寺浩)―奄美大島の「濃密」な自然と人の関わりが秘める可能性

奄美の自然も自然と人の関わりもともに「濃密」ーそう評するのは屋久島・奄美大島両方の世界遺産登録にかかわった元環境省の小野寺浩さん。両遺産登録にたずさわったご自身の経験をもとに、奄美大島の自然環境の特徴や日本における自然保護の変遷を『世界遺産 奄美』という著書にまとめられました。

奄美大島の自然が強くて近いということは直感的に感じていましたが、その自然の多くに人の手が入っていたことは本書で初めて知りました。奄美大島の陸地は8割以上が森林ですが、そのうち自然林は1割にも満たず、ほとんどは畑地開発や薪炭利用、パルプ用材として一度伐採されたあとに植林されたり植生が回復してできた森なのだそうです。
それであれだけの森が繁茂しているのですから、その回復力の旺盛さには目を見張るものがあります。

二次林がほとんどであるにも関わらず奄美大島の陸地が世界自然遺産に登録されたのは、島の独特の成り立ちがもたらした生物多様性があったからで、その点が他の遺産登録地と大きく異なっているそうです。
奄美大島では森林の例のように自然を利用してきたことは事実ですが、自然を取りつくすことを避けるような知恵がありました。集落の後背に広がる山を信仰の対象としたり、木の上に棲む妖怪”ケンムン”の伝承なども、その一例として捉えられます。


本書によると、日本の自然保護に関する考え方がここ最近大きく変わってきているとのこと。従来は大規模な開発など人の介入による破壊からいかに自然を守るかが課題とされてきました。しかし特に自然が豊富な地域において人口減少が進む中、かつて人の手が入ることで保たれていた自然のバランスが崩れるケースが目立ってきたそうです。(シカの大増殖による食害など)
里山のような場所にいかに再び人の手入れを行き届かせるか、それが新しい課題になってきているのです。

こうした中、身近にある濃密な自然を利用しつつも多様な生き物を守ってきた奄美大島の自然と人との関わり方は、同時代的な示唆に富む例になっています。世界から希少さを認められた自然を、保護一辺倒ではなく地域振興とどう両立させていくか-奄美大島だからこそモデルになりうる可能性があるのだそうです。

奄美大島の成立史、自然、歴史・文化がとてもよくまとまっていて、より深く知ったうえで奄美大島を楽しみたいという方におすすめの一冊です。

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