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山や森のイメージが強い屋久島ですが、実は海とのゆかりも深い島です。
屋久島の深い森は1年に366日ともいわれるほどたくさん降る雨にはぐくまれてきました。そんなにも多くの雨が降るのは、屋久島が黒潮のまっただ中につき出している島だから。
あたたかな黒潮から立ちのぼる水蒸気は屋久島に行きあたります。山肌をはい登るうちに冷やされ、雨つぶとなって地上にふり注ぐのです。
そんな黒潮に抱かれた屋久島には、島を代表する海の名産を生む2つの港があります。
ひとつは屋久島の東側、安房(あんぼう)の港。
安房はトビウオの水揚げ高が日本一。世界で50種類ほどいるトビウオのうち、10種類以上のトビウオが水揚げされています。
もともと与論島の漁師さんが屋久島近海まで来てトビウオ漁をされていたそうですが、安房の春牧(はるまき)という集落に移住され、その漁法が今に引き継がれています。
安房には、この豊富にとれるトビウオを原料に加工品を作られている方々がいらっしゃいます。
もとトビウオ漁師だった田中さんが、せっかく獲った魚をより有効に使える方法を生み出したいという思いから船をおり、加工する側にまわって始められたのが「くんせい屋けい水」産さん。
トビウオのくんせいは生ハムのような風味です。
丸喜商店さんはもともと島内向けだったトビウオのすり身をお土産品へ再プロデュース。その他にもトビウオのつき揚げ、焼きあごの加工直売をされています。
また島結レーベルさんはトビウオから作る「焼きあごだし」の製品を生産されています。代表的なものが水産庁長官賞も受賞した「だし醤油の素」や大正5年の創業から続く京あられの老舗とコラボした「あごだしおかき」など。
安房にはこうしたお店のほか、トビウオを使ったランチを提供している飲食店もあります。せっかくなのでぜひトビウオが水揚げされる港のそばの飲食店で召し上がってみて下さい。
ちなみに11月には春牧集落で「春牧とび魚祭り」が開催されます。トビウオの炭火焼きのふるまいやさばき方の実演もあるトビウオつくしのお祭りです。11月はちょうど山も徐々に空きはじめ、ゆっくり楽しめる時期。タイミングを合わせて訪れてみるのもいいかもしれません。
屋久島にもうひとつある漁業の町が、島最北端の集落一湊(いっそう)。
古くから漁業で栄えた一湊は明治の終わりころからサバ漁が盛んになってきました。
屋久島の名産である「首折れサバ」や、関東に出荷されそばのだしとしてもつかわれる「サバ節」は一湊が産地です。
そんな一湊で200年にわたり水産加工業を営んでいるのが丸勝水産さん。
竹の蒸しかごを使い、島の広葉樹の薪で燻すという昔ながらの製法を守りながらサバ節づくりをつづけられています。
サバ節の製造過程で出る灰は、染め物や畑の虫よけに、サバの頭や骨はポンカンやタンカンの肥料に再利用しているそうです。
海のものを森に返してあげる。この煙でさえもまた、雲になって、雲が雨を降らして、その雨が山をつたって、養分やプランクトンが川に行って、それが大海原に出て、サバやらトビウオが食べて、それを漁師さんが獲って、加工して、またこうやって肥料になって。屋久島の自然を利用して、ぐるっと循環する。今だからじゃなくて、昔から普通にやっていること
丸勝水産の眞邉勝志さんはそうおっしゃっています。
サバ節工場のほかにも、一湊の集落には海上安全を祈願し港を見下ろす高台に祀られた浜恵比寿の神さまや、お祝い事の際に振る舞ってきた和菓子のお店があり、漁師町の空気を感じることができます。
空や海から屋久島をながめると、海のただ中から急に山がそそり立っている様子が見て取れます。
海から山へ、山から里を経て再び海へ水が循環し、その循環の中で樹々や海産物がはぐくまれ、海・山の恵みを糧に人々の生活が営まれる。
屋久島はそんな海、山、人の暮らしのつながりを身近で実感できる島です。
屋久島にいらした際は山や森だけではなく、ぜひ漁師町もたずね、そのつながりを直接体感してみてください。