- 奄美大島
自然を畏れつつ委ねる
- 自然
なかなかインパクトのあるタイトルです。
でも、著者の服部さんは、奄美大島にある東京大学医科学研究所の研究施設で、本当に40年にわたり研究に従事されてきました。
もともとは助手として赴任した服部さん。ハブの研究を手伝っていたら、周りの先生や先輩が異動していき、気づいたら服部さんだけが残っていたそう。そうこうするうちに余人をもって代えがたくなり、結果として40年続くことに・・・
傍目にはかなりイレギュラーな人事だと思うのですが、生き物好きの服部さんにすれば幸せな40年だったとおっしゃっています。本書でも奄美の山に分け入り、動植物と出会いを果たす様子を嬉々として描かれています。
本書の前半では、めったにお目にかからないけれども確実にいることはいるハブの生態や、「正しい恐がり方」を、まさにその道のプロとして紹介されています。
・ハブの毒性は意外に強くない(でも大量に出すから噛まれると危ない)
・ハブ毒は口に含んでも大丈夫(少量なら飲んでも)
・だから噛まれたらいち早く毒を吸い出すこと
など、正しく備えるために役立つ知識や情報が満載です。
そして後半では、山歩きをしているうちにハブだけではなく奄美大島の動植物全般に詳しい人と目されるようになった服部さんの目線で見た奄美大島の自然の魅力、委員として関わられた世界自然遺産登録の裏側を紹介。
その世界自然遺産登録について思うところを述べた中にこんな一節があります。
奄美・琉球の特徴は、対象となる島に多くの人が生活している点にある。昔から人が山に入り、利用しながら生活してきた。だから厳密には、手つかずの自然ではなく、二次林が大半だが、それでも他の地域に見られない生き物が絶滅せずに生き残っている。
(P.197)
人の生活があってこその価値でもあるので、人の生活を守りながら、自然も残す。ガチガチに守って自然を残すとなると、人間がつらい。ゆるゆるでもこんなに残っているよというぐらいの姿勢が結果的に自然を守ることにつながる。その折り合いの付け方は自然を知ることでしか生まれない。森に入るしかない。多くの場所は都市化してしまったが、奄美はまだ折り合いの付け方を知り、折り合える状況にある。
(P.209)
これらはまさに人の関りも含む奄美大島の自然の価値を言い表した一節だと思いました。
タイトルだけ見るとちょっとギョッとするかもしれませんが、40年以上島に赴任した研究者という、ガイドブックとはまた違った視点から、奄美大島を初めて訪れるにあたっての予備知識を授けてくれる一冊です。
ぜひ島に出かける前にご一読下さい!