風土とは
風土とはなにか。山・谷・川・海などの地形、田畑や里山など土地の使われかた、気温・降水量といった気候……。人により思い浮かべるイメージはさまざまかもしれません。
こうした自然環境は人間の外にあって、客観的に観察・描写できるものと思われがちです。でも実際には自然環境の方が先にあって、人の内にあるものの見方や価値観、習慣を形づくっています。一方、地球温暖化の例からも明らかなとおり、人間の営みもまた自然環境に影響を与えています。
自然環境と人間の作用は循環していて、切り離さず一体としてとらえられるものといえるでしょう。さらに自然環境と人間の相互作用は、農林水産業や建築・土木の共同作業を通じて人と人がいかに関係を結ぶかを規定し、その場所に固有の社会関係を紡いできました。
私たちはこうした自然と人、人と人が相互に交わり関係しあって生まれるものを風土と呼んでいます。
なぜ今、風土なのか
たとえばひとりの生産者がいて、ひとつの商店があるおかげで朝ごはんの食卓にあがる一品。たとえばある通りのガジュマルの木陰のベンチで交わされるおばあたちのおしゃべり。たとえばサンゴの手積み石垣の道が醸し出すどこかなつかしい佇まい。
土地の風土は、こうしたなくなってしまうと“その場所らしさ”が失われるような日常の小さな“部分”たちが作り出しています。日本全国で人口が減少し、それまであった人の営みが、“部分”たちが姿を消しています。地続きの陸地より早く人口が減っている島々では、その進み方はいっそう急です。
このような土地ごとの風土が失われることは、その場所だけの損失にとどまりません。風土が失われることは、普段自分が過ごすのとは異なる場所にある暮らし方の実例たち、すなわち“異日常”が失われることを意味します。さまざまな“異日常”があると知ることは、生活にゆとりや余白をもたらしてくれます。今ここの暮らしにしがみつかなくては、と思う必要がなくなるからです。こことは違う世界もある、いざとなったら移り住むこともできる、そんな気づきに救われる人もきっといるのではないでしょうか。
そんな風土の多様さが失われていくのは本当にもったいないことです。だから私たちは、私たちと関わりのある島の風土を見出し、そこに寄りそいたい、交わりたいと望む人たちとつなぐことによって、少しでも多様な風土が続いていくことに貢献したいと考えています。
それに風土とは、もともとその土地になじんできたものです。風土を価値あるものとしてとらえるということは、その土地の自然環境や社会関係を尊重するということです。風土との交わりは、特別に切りとられパッケージ化されたいわゆる“アクティビティ”を体験するよりも、土地との関わり方が持続的なのではないかと思うのです。
探究するというアプローチ
風土とは自然と人、人と人の交わりから生まれるものと定義しました。しかし考えてみると、「これがこの土地の風土だ」と断定するのはむずかしいものです。
また、風土に価値を認めるからといって、今の姿が変わらずそのままあって欲しいと望むわけではありません。その土地にとってこれまで大事だったことと同様に、どう変わっていくかという選択、これから大事にしていきたいことも守られるように寄りそっていきたいのです。
そのためには、なにがその土地らしさを形づくる風土で、どのようにその土地のかけがえのない暮らしにつながっているのか、ひとつの答えで満足することなく考究しつづける必要があるのではないでしょうか。あまりに日常的でことさらに取り上げられないようなものにも目を凝らし、その土地になくてはならないものを見究めていきたいと思います。
私たちはいつでも現地にいるわけではないので、みずから見知りできる範囲はかぎられています。だから現地の方々や関わりのある方々の話を聞かせていただきながら、風土を探究し、言葉にして発信していきたいと考えています。
私たちの風土探究をご覧いただいて、心惹かれるものがあったら、ぜひ実際に現地へ赴き交わってみてください。そしてご自身で感じられた風土をぜひ私たちにもシェアしてください。風土探究の仲間が増え、これからも各地の多様な風土が続いていくことを強く願っています。
運営元:南西旅行開発